シャフトの性能を変えたいと思ったら、テーパー調整、中空加工、先角交換などの選択肢がありますが、手持ちシャフトの密度を上げてしまおうという加工方法はこれまでありませんでした。
その新しい加工方法の名前は『imp』。
この記事では、最近Twitterでひそかに注目を集めているimpについて紹介します。
この記事の内容 |
1.impとは
impとはincreased mass processing(増質量加工)の略で、木製シャフトの内部に特殊樹脂を含侵させることでシャフトの質量をあげる加工のことです。
考案者は鬼タップでおなじみの牛王さん。
Twitterアカウント
問い合わせ先:ckcustombuild884@gmail.com
牛王さん、こちらの記事で書いた通り一時期鬼TIPを離れていましたが、今は復帰しています。
鬼タップも単層タップに特殊樹脂を含侵させることで硬度をあげていますが、それをシャフトにやってしまおうというのがimpのはじまりです。
ちなみにimpは鬼TIPとしてではなく、牛王さん個人としての取り組みになります。
2.impの流れ
まずはじめにimpの流れについて簡単に紹介します。
impではお手持ちのシャフトを預かってから、以下のような流れで作業していきます。
① 状態チェック(重さや反り具合)
② クリーニング
③ 乾燥
④ 樹脂擦り込み(4層)
⑤ 硬化&乾燥
⑥ 養生期間(消臭効果の確認等)
皆さん気になるのは④の部分じゃないかと思うんですが、樹脂の含侵というのは液体に漬け込んだりするわけではなく、ペーパータオルを使って擦り込んでいきますので、シャフトに余計な水分が入って曲がりの原因になるみたいな心配はありません。
また、木に樹脂を含侵させるというと、カスタムキューのバットにもよく使われるスタビライズド加工が頭に浮かんだ人も多いと思いますがimpはそれとは全くの別物です。
出典:ニューアート
真空含侵することで木材の深部にまで樹脂を入れて固めてしまうスタビライズド加工に対し、表面に樹脂を擦り込むimpは中心部分は元の木のままのため、木自体の打感は残しつつ、硬くしっかりとしたシャフトに仕上がるという特徴があります。
3.impの効果
このようにしてimpを行うことで、シャフトには以下のような変化が起こります。
・密度が増す
・硬くなる
・わずかに重くなる(1~4g)
樹脂を含侵させることで、シャフトの密度が増し、スカスカだったシャフトも使い込んだシャフトのようにより締まった状態になります。それにともないシャフトは硬くなり、わずかですがウェイトも上がります。どれぐらい重くなるかはシャフトの状態によりますので一概には言えません。
ちなみに、質量と重量ってだいたい同じだと思ってたんですが、なぜ「増重量加工」ではなく、「増質量加工」って名前にしたんですか?って聞いたら、「重量を上げることが目的ではないから」だそうです。実際、重量の変化はわずかですし、1gの変化とかほとんど違いがわからないですからね。
impの目的はあくまでも「しっかりとした密圧のある打感に変化させること」です。
一方で以下についてはほとんど変化しません。
・テーパー、形状
・色
・滑り、手触り
まずテーパーですが、樹脂は内部に含侵していき、表面に残ることはありませんので、シャフトのテーパーが変わったり、表面に凹凸ができたりすることはありません。
また使う樹脂は無色なので、シャフトが黒ずんだり変色したりということもありません。
滑り、手触りについて、これは実際に触ってみてもらえばわかりますが、体感で変化は全く感じられません。
4.impのメリット
「で、密度があがったり硬くなったら何かいいことあるの?」
って思いますよね。
impのメリットがこちらです。
・打感が良くなる
・打音が良くなる
・シャフトが負けにくくなる
ちょっとわかりづらい部分もあると思いますので、さらにくわしく説明します。
打感、打音が良くなる
まず、わかりやすいところから。
打感、打音の良しあしというのは、個人の好みなので一概には言えないところですが、打感、打音が良いと言うのは多くの人にとって、わりと硬めのしっかりした感触、コォーンと響くような甲高い音だと思います。
スカスカだったり、柔らかくてぐにゃっとした感じが良いという人はほとんどいないんじゃないかと思いますが、impをすることでシャフトが締まって硬くなるわけですから、当然、打感、打音も良い方向に向かっていきます。
シャフトが負けにくくなる
で、わかりづらいのがこの点ですね。
impについて牛王さんとやり取りしていると、しょっちゅう「シャフトが負けなくなった」ってワードが出てきて、どういうこと?って最初は思ってたんですが、そう思った人は僕だけじゃないと思います。
「シャフトが負ける」
ある一定のキュースピードを超えて手球を撞いた時に、シャフトが大きくしなり、手球にパワーやスピンがちゃんと伝わらず、意図したようなアクションを与えられなくなることがあります。そういう状態のことを「負ける」と表現しています。
どれぐらいのキュースピードになるとシャフトが負けてしまうかは個体によると思いますが、ちょっとハードショットをしたら手球が思ってたのとぜんぜん違う動きをしたとか、的球がどそっぽに外れたなんていうのは、必ずしもこじりとかだけの問題ではなく、シャフトが負けているという可能性もあります。
どんなキュースピードで撞いても、球には想定内の動きをしてほしいですよね。動きを読めないシャフトでは不安です。
「これぐらいのキュースピードになるとたぶんシャフトが負けるから、少し微調整が必要だな」とか考えながらやってたらミスも増えますよね。
そういうミスの要因を減らすためにもシャフトは負けないもののほうが良いんですが、impをすることでシャフトは硬く、強く、負けにくくなります。
以下は参考までに。以前、牛王さんがこんなTweetをしていました。
imp加工後は驚く程にシャフトが負けなくなります。
使用シャフトは50年程前の物で先角も象牙、径も11.9mmのシャフトにimp加工を施したものです。
かなり突っ込んでるのも手玉の飛び上がり方を見て頂ければ想像つくかなと思いますね。
それでも負けて上に跳ね上げられることなく撞く事ができます。 pic.twitter.com/jAnyWv8KHt
— 牛王 (@miru_senss) July 9, 2023
加工前の動画がないのでぴんとこないかもしれませんが、11.9mmという細いシャフトでこれだけ突っ込んでてもそんなにしなってるように見えないので、かなり強くなってるんじゃないかと思います。
他の人があげてたスロー動画でシャフトがもっとバイィ~ンってなってるの見たことがありますが、それと比べるとぜんぜん違いますね。
シャフトが負けないとどうなるの?
「で、負けないとどうなるの?」
当然の疑問だと思うので、さらに深堀りしていきます。
ここからはその人のプレースタイル、撞き方、キュースピードとか色んな条件によって変わってくるので、impの効果として保証できるものではありませんが、負けないシャフトを使うことで(負けるシャフトを使っていた時よりも)以下のような変化を感じられる場合があります。
・パワーが増す
・キレが増す
・トビが軽減される
繰り返しですが、これらは本当に人によります。
せっかくなんでもう少し深堀りします。
パワーが増す
パワーというのも人によって定義が違うのかもしれませんが、同じ厚み、同じ撞点、同じキュースピードで撞いた時、手球が転がる距離がより長いほうが「パワーがあるシャフト」とここでは定義します。impしたほうがシャフトの硬さが増しますが、硬いほうが手球に伝わる力も大きくなるというのはたぶんそんなに異論ないかなと思います。
キレが増す
スピンがよりよく乗るようになるということです。押し引きひねり全部。
ところで、「柔らかいシャフトのほうが切れる」って昔からよく言われてましたよね。手球の端を撞いた時にシャフトがしなったほうが手球の表面をこする時間が長くなるから、よりスピンがかかるんだみたいな理屈だったかと。僕もずっとそう思ってました。
でも、あまりしならずに狙った撞点をまっすぐ貫ける硬いシャフトのほうが回転がよく乗ると牛王さんは言いますし、最近僕もそう思うようになってきました。でもこれは撞き方とかキュースピードによって変わるので、人によっては柔らかいほうが切れるという人もいると思います。
そんな感じで人それぞれですが、硬いシャフトや硬いタップのほうが切れると感じている人はたぶん、impすることでさらに切れが増すんじゃないかと思います。
トビが軽減される
これについても柔らかいほうがトビが少ないという人のほうが多いかもしれません。僕もそう思ってました。手球の横を撞いた時にキュー先がしなって横に逃げてくれたほうが手球を横(逆方向)に弾く力が軽減されてトビが減ると。
でもそうじゃないという考え方もあるということを今回初めて知りました。しなりが大きいほうがそこから戻ろうとする力も大きくなるのでトビも大きくなると。
ハイテクシャフトは英語で「low deflection」って言われますが、これはしなりが少ないって意味です。トビを減らすって原理的にはそういうことなんですね。
これについて牛王さんから図解付きで詳しく説明してもらって、「確かに」とかなり納得したんですが、難しい話なので詳細は省きます。すみません。
僕はずっとカーボンシャフトがトビが少ない理屈がわからなかったんですが、そういうことなのかと1人で納得しちゃいました。
ただこれも撞き方とかバットとの相性とか色々あるようですので、必ずしもトビが減ると言えるものではありません。
5.impできるシャフト/できないシャフト
impはどんなシャフトにもできるわけでもなく、またできたとしても効果が出にくいシャフトもあります。以下に簡単にまとめました。
impできるシャフト
・ノーマルシャフト(ブレイクシャフト、ジャンプシャフトも可)
・ハイテクシャフト(張り合わせ、中空、カーボンコア等)
impできるけど効果が出にくいと思われるシャフト
・トリファイドシャフト
impできないシャフト
・カーボンシャフト
impはもともとノーマルシャフトの密度を上げるという発想で始まったものですが、樹脂は中心部まで含侵させるわけではありませんので、中空やカーボンコア等のハイテクシャフトでも可能です。
トリファイドは現時点で加工実績がありませんが、効果はあまり見込めないのではないかとのことでした。トリファイドシャフトって何?という人はこちらの記事もあわせてご覧ください。
6.まとめ|第2話に続く
今回の記事はここまでです。
impについては数か月前から牛王さんがTwitterで発信していて、本リリースの前に25本限定でテスト加工を受け付けていました。
予定本数の予約はあっという間に埋まってしまい、現在牛王さんのほうで鋭意対応中ですが、これから順次ユーザーにシャフトが届いていきます。
実は僕のOMENもお先に加工してもらっていて、すでに使わせてもらっています。
というわけで第2話はユーザーレビューです。
そして最終話で依頼方法や注意点、工期や料金などについてまとめようと思っています。
以下、関連記事です。