最新のタップから100年前のオールドタップまで年間数百個のタップ交換をし、あらゆるタップに精通するタップマイスターモスモスさん。
今回はそんなタップ愛に満ち溢れた男、モスモスさんのタップ交換を紹介します。
1.タップマイスター モスモスさんのタップ交換
先日ついにモスモスさんとお会いすることができ、僕のシャフト2本のタップ交換をしてもらいました。
僕は自分でもタップ交換はできますが、やはりタップの神様の交換方法を見ておきたかったからです。
今回付けてもらうのはこれ。
左が先日記事にしたオソマタップ、右が非売品のBIZEN Mを僕の好みに合わせて硬く締めてくれたものです。
これらの取り付けの様子を動画に撮らせてもらいましたので、タップ神のタップ交換方法を順を追って詳しく解説していきます。
(1) 古いタップの切り落とし
ここは動画撮れてませんでしたが、革包丁で普通に上からさくっと切り落としてました。
僕はこの後の工程が楽になるよう、先角ギリギリを攻めて切り落としますが、モスモスさんは1mmぐらいタップを残して切り落としてます。次の水平出しの動画を見てもらえればわかります。
(2) 先角水平出し
動画
道具
・カッターの刃(黒刃) ※新品の切れる刃
・カッターの刃(黒刃) ※何度か使って鈍った切れない刃
モスモスさんが使っているのはこちら、0.7mm厚の特大サイズの黒刃(両刃)です。
切れる刃と切れない刃を使い分けているところがポイントですが、理由はこのあと説明します。
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ちなみにモスモスさんは今は若井製作所の先角水平君5.0という専用の道具を使っています。
詳しくは先日記事にしたこちらをご覧ください。
ポイント
動画内でも説明していますが、ポイントをかいつまんで説明します。
まずタップを切り落とした後の水平出しの前半部分、持ち方はこう。
ここは切れる刃を使います。
あとはシャフトを回して削っていきますが、モスモスさんはあまりギリギリまでは攻めません。
下の写真ぐらいまでで次の工程に進みます。僕はもっと削りますね。
次に後半。右手の持ち方はみんなこうだと思いますが、ポイントは左ひじと脇腹でシャフトをしっかり固定しているところ。
ここを安定させて、左手で旋盤のようにシャフトを回転させます。
この工程は切れない刃を使っています。
理由は先角を傷つけないようにするため。なので先角が見えてくるに従い、力を弱めて、先角に傷がつかないようにケアしています。
最後に光にかざして水平出しの精度をチェック
(3) タップ水平出し
動画
2022/4/27 訂正 上の動画、2:00のところの字幕に誤りがありました。 誤 「タップも一緒に回転しなければOK」 |
道具
・紙やすり(240番、1500番)
・ガラス板
ポイント
完全な平面を出すため、モスモスさんはガラス板の上でやっています。ガラス板なんて普通持っていないと思いますが、要はちゃんと平らな場所でやりましょうってことですね。
ラシャの上とか、レールの上でやる人がいますが、NGです。
240番と1500番のやすりで削ったら、最後に同じように接着面をガラス板にこすりつけます。これは接着面をつぶして、接着剤が染み込まないようにするためです。
最後に下の画像のようにタップを押さえて、シャフトを回転させてちゃんと水平だしできているか確認。できていればシャフトと一緒にタップも回転します。
この工程、動画を見るとわかりますが、モスモスさんは僕が思っていたよりもずっと短時間で終わらせています。
僕はやたらと念入りにやっていましたが、そこまでする必要はないみたいですね。
(4) 接着
動画
道具
・マスキングテープ
・エタノール
・キムワイプ
・接着剤(ロックタイト401)
エタノールとキムワイプの使い方はこのあと説明しますが、モスモスさんが使ってるエタノールはこちら。
4リットルもあって、普通の人は使いきれませんね。。
同じぐらいの濃度で手頃なのを探してみましたが、これとかでしょうか。モスモスさんのと成分が違うかもしれません。同じ効果が得られないかもしれませんが、気になる方はご自分で調べてください。
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キムワイプと接着剤はこちらです。
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ポイント
モスモスさんは最初にエタノールを先角の接着面に塗って脱脂をしています。
塗布に使うのはキムワイプという埃が出にくい紙ワイパーです。
接着面の汚れや油脂をあらかじめ落としておくのが接着のコツだとアロンアルファのサイトにも書いてありますが、モスモスさんはその基本を徹底しているわけですね。
ところでタップをちゃんと先角の中心にくっつけるのって意外と難しいですよね。手に接着剤つくと嫌だし。
だから僕は接着時は指サックを付けて、指で中央の位置を確認しながら接着しますが、モスモスさんはこうやっています。
まずは接着前にデモンストレーション。
タップの中心に先角を重ねたとき、タップの周りにどれぐらいの余白ができるかを事前に確認します。
ここが中心ということですね。これはモーリタップの毛利さんが自身のブログで紹介しているやり方です。
モスモスさんいわく、タップ交換失敗最大の要因は接着むらとのこと。なので接着剤をタップに薄く広く全体にまんべんなく塗ります。
ちなみにモスモスさんがこの日に使用した接着剤はロックタイト435ですが、今はまた401に戻しています。
そしてさっき事前に確認したタップの余白位置に合わせて、中心に接着します。
持ち方はさっきと一緒ですが、この時シャフトは肩に乗せ、安定させています。これも毛利さんのやり方ですね。
5秒ぐらいたったら指で軽く圧着。
最後にタオルに押し付けてしっかり圧着。
(5) 側面削り+Rの粗削り
動画
道具
・カッターの刃(黒刃)
・革包丁
カッターの刃は先角水平出しに使ったのと同じものですが、切れ味が大切な側面削りは新品のものを使っています。
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ポイント
刃の持ち方はこうです。
そしてシャフトを回転させて削っていきます。
モスモスさんが使用しているのは両刃なので、下の図の左の絵みたいな感じに微妙に角度調節をしています。
僕はこの微調整ができなかったので、片刃を使って右の絵のように削っているのですが、モスモスさんが使っている特大の黒刃のほうが刃が厚い分、パワーがあってよく切れます。
角度の微調整が上手にできるなら、そちらを使ったほうが楽だと思います。
ただし、いくら刃が厚くてパワーがあるといっても、そのまま上まで削りあげていってしまうと、どうしてもRの部分がせり出してきてしまうので、そこは刃の角度をさらに倒して、エッジの部分を削り落とします。
その後、アールのエッジの部分をスライスし、ある程度ここでアールの整形をしておきます。
最後に、片刃の革包丁を使って、側面(先角とタップの境目)をフラットに仕上げたらこの工程は終わりです。
ちなみに片刃なので、ここでは刃の裏面はぴたっと先角に密着させています。
僕は最初から最後まで全部片刃のカッターの刃でやりきっちゃいますが、刃がパワー不足なんでどうしても時間がかかってしまいますね。
(6) 側面仕上げ
動画
道具
・紙やすり(番手:240,320,400,600,800,1000,1200,1500,2000,4000,6000,8000,10000)
・トコノール
・アルミ板
トコノールとはレザークラフトの必須アイテムで、革の断面や裏面の毛羽立ちを抑え、艶出しをしつつ、耐久性も上げる効果があります。
僕も以前は使っていましたが、タップの性能を損ねるおそれがある(特に積層タップ)という話を聞いてからは使用を中止しました。
しかし、モスモスさんいわく、艶が出にくい牛革タップの場合は使ったほうが良いとのことで、このへんは意見がわかれるところですね。
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アルミ板はトコノールを塗った後の断面を強くこすりつける時に使います。
そうすることで側面を硬くする効果がありますが、アルミである必要はないので、何か硬くて平たいもので代用できると思います。
それこそダイソーのかかとやすりの持ち手の部分とかでも良いと思います。
ポイント
まずは紙やすりで側面を磨いていきます。
下の画像の通り、持ち手が滑らないよう、紙やすりは折り返しています。
持ち方はこんな感じ。
人差し指でタップのトップを押さえ、紙やすりが先角を削ってしまわないよう、ストッパーの役目を果たしています。
シャフトの持ち方は先角の水平出しの時と同じで、肘と脇腹で固定して、旋盤のように回転させています。
これを紙やすりの番手をあげながら繰り返します。
最後に側面にトコノールを塗って、
タオルでトコノールを拭き取ったら、アルミ板で強くこすりつけることで、側面を硬めて終わりです。
ちなみに以前モスモスさんは革の硬化剤を塗って、さらに側面を硬くしていましたが、今は使っていません。
またタップによっては油分を補い、打感を良くするために油性マジックを塗ったりもしています。ブルータップには必ず、その他の積層タップ(主に牛革)は側面を削ってパサついてると思ったら塗るそうです。
それによって音や打感なども変わるそうですが、このへんは経験値や好みによるところなので、なかなかマニュアル化は難しいところですね。
(7) Rの仕上げ
動画
道具
・やすり各種(タップの硬さや工程によって使い分け)
・チョーク
モスモスさんはタップの硬さや種類によって多くのやすりを使い分けています。
この日持ってきていたのは下の9種類で、
上の動画で使っているのは、以下3つです。
・ダイソーのかかとやすり(左から3番目)
・市販のタップシェーバー(右から4番目)
・セリアのネイルやすり(右から2番目)
これらを粗いものから細かいものへと変えながら使っていきますが、硬めのBIZENタップには左から2番目の鉄工やすりを使っていました。
ちなみに最近、モスモスさんのR出しに欠かせないアイテムがあります。
その名はR10。僕も持っていますが、これは本当に素晴らしいです。
興味がある人はこちらの記事をご覧ください。
ポイント
市販のタップシェーバーなどを使って、アールを仕上げます。
やすりは段階的に細かいものに変えていきます。
削り終わったらチョークを塗って、やすりで叩き込みます。
ここで叩き込んだチョークが、他のチョークを呼び込んでくれるそうです。塗ったチョークが定着しやすくなるということですね。
これで完成。
今回2本のタップ交換に45分ぐらいでしょうか。解説しながらやってもらったので、通常であれば2本30分程度で終わると思います。
(8) 使用後の整形
タップ取り付け自体はここまでで終わったので、すぐにプレーできる状態ですが、タップ交換はここで終わりではありません。
このあとモスモスさんと4本のセットマッチをやりました。2セットはオソマ、2セットはBIZENでやったのですが、撞き終わった後に膨らんだ側面とつぶれたアールをやすりで再整形してもらいました。
モスモスさんいわく、そこまでがタップ交換だそうです。
さすが!
(9) ノーカット版動画
今回シャフト2本のタップ交換をしてもらいましたが、上で切り抜いた動画は主に1本分です。
もう1本分のほとんどはカットしてしまいましたが、手際など隅から隅まで見たいという方はこちらの動画をどうぞ。
こちらは字幕はありません。
ちなみにノーカット版と言いつつ、モスモスさんや常連さんの顔が映ってしまっている部分は泣く泣くカットしています。
目次 0:00~ 先角水平出し |
(10) モスモスさんの過去の解説Tweet
ここまで僕の目線でモスモスさんのタップ交換方法を解説してきましたが、以前、モスモスさん自身がTwitterで詳しく解説しながらタップ交換をしていました。
使う道具や工程など今とは違う部分もありますが、さらに詳しく説明されていますので、こちらも参考にしてください。
こちらが前半、側面削りまで。
交換開始
MMTからBIZENへ
細かく解説しながら取り換えていきますのでお楽しみに🤩✌️ pic.twitter.com/k1bF4AE0ds— モスモス (@mosmos90054560) October 12, 2020
こちらが後半、R出しからです。
さあ、ここから続きを
モスモス流をかなり細かく解説していこうかな pic.twitter.com/ZMWtGwJ9Yt— モスモス (@mosmos90054560) October 10, 2020
2.やり方はいろいろ|タップ交換の正解は?
こうやって見ていただくと、使う道具や細かいケアなど、モスモスさんのこだわりがわかりますよね。
でも、ここまでやる必要ないでしょ?って思う人もいると思います。
実際、やり方はいろいろです。
豚革積層タップの場合
僕がこれまでメインで使っていたのは豚革積層タップですが、ここまで色んな道具は使っていませんでした。以前は使っていたトコノールも今では豚革にはほとんど使っておらず、水で湿らせて紙やすりの裏面で磨くだけですが、それでこれだけの艶が出ます。
これでいいじゃんって思っちゃうんですが、これはメンテナンスにそこまで気をつかわない豚革積層タップです。ほっといても側面が毛羽だったり膨らんだりってことがそんなにありません。
でもモスモスさんいわく、牛革のほうが繊細なので、豚革と同じ工程では性能を引き出せないそうです。
モスモスさんの太鼓理論
モスモスさんがよく言っているのが、タップの側面を硬めることの重要性です。
以下はTweetからの抜粋
なぜタップサイドを硬くすることが大事なのか? 太鼓は、胴が硬くしっかりしているからこそ、音も振動も心地良い。 特に牛革は革の繊維が荒いので、サイドをしっかり硬めないといい音がなりにくく、打感もボヤけちゃうんです。
もうひとつ大事なこと。なぜエッジを綺麗に、クッキリさせることが必要なのか。 それは正面から来た衝撃を横に逃さない為なんです。 エッジがしっかりしていることで衝撃を正面に返すことが出来るんです。凄く大切なところなんです。
これでタップの性能を充分に引き出すことが出来るし、サイドも膨らみにくくなるので長持ちするし、音も打感も劇的に良くなります。 ぜひぜひ試してみてくださいませ。 タップが心地良いと、全てが心地よくなると思っています。 共に快適な球撞きライフを送っていきましょうね |
牛革タップは水だけではちゃんと側面が締まらないものが多いです。
だからモスモスさんは側面にマジックやトコノールを塗って硬くしているんですね。
タップ交換の正解は?
結局、何が正解かなんて僕にはわからないんですが、僕は撞く時間もそんなにとれないし、あまり遠回りしたくないので、経験豊富な人のやり方を参考にしようと思います。
自分で色々試してみたいという人は、もっと変わったことをやってもいいと思いますし、そういう試行錯誤が楽しい人もいると思います。
実際、モスモスさんのタップ交換は常に変わり続けています。
つい先日も良いこと思いついたとか言っていたので、また何か企んでいるんだと思います笑
僕のタップ交換|誰もが気軽にタップ交換できる手順
ちなみに僕のタップ交換手順、以下のコンセプトでまとめあげました。
・初心者でも失敗が少なく、再現性が高い ・手に入りやすく、扱いやすい道具を使う |
詳しく丁寧に説明していますので、初めてタップ交換する方、うまくできなくて悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
3.まとめ
いかがでしたか。
こだわりが変態すぎて、全部を真似するのは難しいですが、道具の使い方や考え方など、参考にすべき部分がたくさんあったと思います。
できることころから真似してみてください。
モスモスさんは球撞きと同じぐらいタップ交換が好きな人で、年間400個のタップ交換をしたこともあったそうです。
いろんなお店で無料出張タップ交換会なんかやってますので、そのうちどこかでお会いすることもあるかもしれませんよ。
最後に、モスモスさんのタップ交換への愛がわかるTweetを貼っておきます。
ぼくはティップ交換というものが本当に好きなんです。
仕事ではなく大切な趣味なので交換費用は一切いただいていません。
一生懸命研究し続けているこの技術は、みんなとより仲良くなるためのツールだと思っています。
なので気軽に交換依頼してくださいね。お会いできるのを楽しみにしております🥰👍— モスモス (@mosmos90054560) March 25, 2022
以上です。
ちなみに、今回取り付けてもらったのは両方とも牛革タップです。
斬やKAMUIなど豚革積層タップ全盛時代にモスモスさんが牛革タップにこだわる理由は何なのか、こちらの記事にわかりやすくまとめました。良かったらこちらの記事もあわせてご覧ください。